小麦について

【穂発芽】という問題〜小麦と農家さんについて知って欲しい〜

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今回は、小麦の「穂発芽」という農家さんを困らせている問題について解説していきたいと思います。

穂発芽とは

それでは穂発芽とは一体なんでしょう?

をれは、「小麦が穂についた状態のまま発芽してしまうこと」です。

どういうことかと言うと、小麦は収穫の直前に雨に当たると、子孫を残そうとして、実が穂についたままの状態で発芽してしまうのです。

穂発芽するとどうなる?

では、小麦が穂発芽してしまうと、どういう影響があるのでしょうか?

発芽した小麦は、芽が育つエネルギーを作るために、どんどん酵素を出して、デンプンタンパク質を分解していきます。

デンプンやタンパク質は、パン作りには欠かせない要素です。
もしそれが分解されてしまったら、パン作りには向かない小麦になってしまいます。

【キタノカオリ】という小麦

特に穂発芽しやすい小麦に【キタノカオリ】というものがあります。

キタノカオリは、主に北海道で生産されている小麦です。

キタノカオリで作られる小麦粉は、ほのかに黄色味がかっているのが特徴です。

タンパク質を多く含んでいて、吸水性も高いため、とてもパン作りに向いた小麦です。
パンにしたときの味は、香り・風味が良く、甘さもあって、さらにもちもちとした食感のパンを作ることができる、とてもおいしい小麦です。

もっちりした食感の【食パン】や、【チャバタ】や【パン オ ロデヴ】といった、高加水のパンなどを作るときによく使われます。

そのため、多くのパン屋さんで使用されている、とても人気の小麦です。

[memo title=”column:国産のパン用小麦の主な品種”]・ゆめちから(北海道)
・春よ恋(北海道)
・キタノカオリ(北海道)
・ハルユタカ(北海道)
・はるきらり(北海道)
・ゆきちから(東北)
・ゆめかおり(北関東)
・ハナマンテン(北関東)
・ニシノカオリ(三重県)
・ミナミノカオリ(九州)
[/memo]
*( )内は主な産地

農家さんにとって

美味しくて、とても人気のあるキタノカオリですが、他の小麦に比べて穂発芽しやすいという特徴があります。

そのため、小麦を生産する農家さんにとっては、そのようなリスクの高い小麦は、あまり作りたくないというのが心情です。

もし仮に、穂発芽してしまった場合には、JAや製粉会社が、ちゃんとした小麦として買い取ってくれず、飼料として安く売るしかないということになってしまいます。

(中には、穂発芽してもちゃんと買い取ってくれる製粉会社もあります。あえて穂発芽した小麦を使って、小麦粉を製造されたりしています。)

他の小麦の方が、穂発芽しにくく、また収量も多いので、キタノカオリを無理して作る必要はないのです。

それに、一生懸命育てた小麦が、少し雨に当たっただけで、食べてもらえなくなるというのは、農家さんにとって本当に悲しいことだと思います。

小麦の収穫期には、「雨が降らないか気が気じゃない」、「雨が降らないうちに、連日徹夜で収穫を行っている」といった話も聞いたことがあります。

そのため、キタノカオリを生産する農家さんがどんどん減っているのが現状です。
(2020年、生産終了になっているメーカーがほとんどです。)

キタノカオリをなくさないで欲しいと多くのパン屋さんが呼びかけていますが、農家さんや製粉会社としては、作りやすいものを作りたいというのが心情だと思います。

[memo title=”column:穂発芽した小麦は甘い!?”]穂発芽した小麦は、酵素によってデンプンが分解されて糖になるため甘さがあり、
また、タンパク質が分解されてアミノ酸となることで旨味があります。
そして、酵素の働きが活発なので、モルトを添加しなくても美味しいパンを作ることができます。

そのため、穂発芽した小麦は、他の小麦と上手くブレンドすることで、美味しいパンを作ることが出来ますよ。[/memo]

以上が、「穂発芽」についての解説になります。

僕としても、今後キタノカオリを使ったパンが食べられなくなってしまうのは、とても寂しい思いです。

しかし、日本のパン用小麦もどんどん品種改良が進んでいます。
農家さんやパン屋さん、消費者みんなにとって良い小麦が今後開発されることに期待したいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考図書

パンの世界 基本から最前線まで:志賀勝栄 著

志賀さんは、少ないイーストでも長時間発酵させることでパンを作る
イーストに頼らず天然酵母だけでパンを作るといったことの第一人者です。

東京のシニフィアン・シニフィエというパン屋のシェフをやっておられます。
シニフィアン・シニフィエのパンは、とても風味豊かで味わい深く、美味しいですよ。


パンの世界 基本から最前線まで (講談社選書メチエ)